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オーストラリアの新たな過少資本税制:負債額に関するATOの草案ガイダンス

オーストラリアの新たな過少資本税制:負債額に関するATOの草案ガイダンス
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  • 18 Jun 2025

ATO(オーストラリア税務局)は、移転価格税制上、インバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引における負債額を決定する際に考慮すべき要素について、実務コンプライアンス・ガイドライン(PCG)の草案を公表しました。これは、昨年ATOが新たな過少資本税制の規則に関してガイダンスを示す旨の予告をしていた三つの最重要分野のうち、最後に当たるものです。 

本アラートは、2025年5月30日に発行されたTax alertの日本語版の要約が含まれています。

In brief

ATO(オーストラリア税務局)は、2025年5月29日に「PCG 2025/D2:インバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引の金額を決定する際に考慮すべき要素-ATOのコンプライアンス・アプローチ(PCGの草案)」を協議目的で公表しました。 

本PCGの草案は以下の通りです。

  • 納税者のインバウンドのクロスボーダー関連者間負債額に対する移転価格税制の適用に関するATOのコンプライアンス・アプローチ
  • 納税者が自らの取引のリスクを自己評価するための枠組み
  • インバウンドのクロスボーダー関連者間債務額を決定・検証する際に考慮する要素
  • インバウンドのクロスボーダー関連者間債務額に関する文書化および証拠についてのATOが期待する内容

ATOは、財務部門や財務担当者、第三者の貸し手が債務能力を評価する際に考慮する主要な要素について、十分に検討された情報をまとめています。本ガイダンスは、デットファイナンスの商業的・経済的な利点を認識し、適切な債務水準の決定には、特定の状況に応じた様々な考慮事項が必要であることを認めています。ATOは、移転価格税制上の独立企業間価格の債務額を「一律の」財務指標のみに基づいて決定することはないことを示唆しており、むしろ納税者に利用可能な商業取引や選択肢を包括的に評価することを推奨しています。

In detail

2024年に施行されたオーストラリアの過少資本税制の改正パッケージの一環として、移転価格の規則にも変更が加えられました。これにより、ほとんどの納税者に対して、クロスボーダー関連者間借入額は、独立企業間価格要件との整合性が求められることとなりました。 本改正前は、過少資本税制の規則の適用を受ける納税者にとって借入額は過少資本税制の規則のみによって制限されており、関連者間において移転価格規則における独立企業間要件の充足の影響は受けていませんでした。

本改正は、2023年7月1日以降に開始する事業年度に適用され、以下を除くほぼすべての納税者に広く適用されます:

  • 過少資本税制上のセーフハーバーテストまたはワールドワイド・ギアリング・テストを利用するインバウンドおよびアウトバウンドの金融機関
  • インバウンドおよびアウトバウンドの認可預金取扱機関(ADIs) 

つまり、新しい過少資本税制の規則の下での一般クラスの投資家や、新しい第三者間負債テストを選択した金融機関は、クロスボーダー関連者間借入金額が独立企業間の金額であるかどうかを検討する必要があり、加えて、借入金の価格や金利が独立企業間の水準であるかどうかも評価しなければなりません。

本PCGの草案は、インバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引にのみ適用され、価格に関する事項は対象外であり、価格に関する事項は引き続き「PCG 2017/4 クロスボーダー関連者間金融取引および関連取引に関する税務問題へのATOのコンプライアンス・アプローチ」で取り扱われます。
本PCGの草案は、現在パブリックコメントを受け付けており、提出期限は2025年6月30日です。

ATOのコンプライアンス・アプローチおよびリスク評価フレームワーク

本PCGの草案には、インバウンドのクロスボーダー関連者間債務の独立企業間の金額を決定する際に納税者がコンプライアンスリスク、ひいてはコンプライアンスコストを管理できるように設計されたリスク評価フレームワークおよびATOのコンプライアンス・アプローチが含まれています。 このフレームワークは「セーフハーバー」を構成するものではなく、ATOの法解釈を置き換えたり、変更したり、影響を与えたりするものではありません。また、納税者が関連法令に従って自らの税務ポジションを自己判定する法的義務を免除するものでもありません。しかしながら、さまざまなタイプのインバウンド・クロスボーダー金融取引に付随するリスクをATOがどのように評価するかについての指針を示しています。

他のPCGと同様に、本PCGの草案ではリスクゾーン(ホワイト、グリーン、ブルー、レッド)が設けられており、それぞれのゾーンにおけるATOのコンプライアンス・アプローチが示されています。 これは下表に要約されています。

リスクゾーンおよびレベル 基準 ATOのコンプライアンスアプローチ

ホワイト 

すでにレビュー済み・結論済みの取引 

インバウンド、クロスボーダー関連者間金融取引が以下のいずれかの基準を満たす場合:

  • 2024年4月8日以降にATOとの間で和解合意が成立し、その合意内容がオーストラリアの税務結果および移転価格規則に基づく取引金額について合意している
  • 当該取引に関して当事者となった裁判所の判決がある
  • ATOとの間で移転価格事前確認(APA)が締結されており、移転価格規則または関連租税条約の関連企業の条項に基づく取引金額について合意している
  • 2025年1月1日以降に開始されたATOのレビューにより、当該取引の金額について「低リスク」評価を受けている

かつ、

  • 合意・判決・レビュー以降、インバウンド、クロスボーダー関連者間金融取引の条件に実質的な変更がない場合
このリスク評価フレームワークによる自己評価は不要です。 ATOはインバウンド、クロスボーダー関連者間金融取引の金額に関してコンプライアンスリソースを適用しません。 
PwCコメント:納税者は、ATOのコンプライアンスレビューの対象となる前に、債務金額を裏付ける適切な文書と証拠を確保しておく必要があります。ATOのコンプライアンスプログラムの頻度と対象範囲を考慮すると、時間が経つにつれて、多くの納税者がこのカテゴリに該当することが予想されます。
リスクゾーンおよびレベル 基準 ATOのコンプライアンスアプローチ

グリーン

 

低リスク 

貴社のインバウンド、クロスボーダー関連者間金融取引が以下のいずれかの基準を満たす場合:

  • 本PCGの草案に記載された低リスク例のいずれかに該当し、かつ高リスク例には該当しない
  • ATOによる金額のレビューで「低リスク」評価(またはジャスティファイド・トラストレビューで「高い保証」)を受けている

かつ、

  • レビューや監査時のリスクまたは保証評価の根拠となった取引に実質的な変更がない場合

 

特に、ATOの簡素化された移転価格の記録保持オプションの対象となる低レベルのインバウンドローンに対して本PCGの草案における「低リスク」の結果が適用されるとの示唆は無い。

ATOは、納税者の自己評価の検証のためにのみコンプライアンスリソースを適用します。 

PwCのコメント:グリーンゾーンの2つの条件により、多くの納税者が本ゾーンの対象外となる可能性があります。

 

我々の経験に基づくと、多くのオーストラリアの多国籍企業グループの子会社は、所得年度を通じてグローバルグループよりも強力なレバレッジと利子カバレッジ比率 (interest coverage ratios)を示すことが困難であると予測しています。その理由として、オーストラリアの負債が新たな買収に関連していることや、分散されたグループ全体の収益の不安定性と単一のオーストラリア事業の収益性の違いなどがあります。したがって、納税者は類似企業に対して自社の負債の金額を支持できる可能性があります(関連会社の融資に関しては、比較対象の選択をめぐって意見が分かれることが多い点にご留意ください)が、本PCGの草案の要件により、グローバルグループの比率にも合致する必要があるため、グリーンゾーンが利用できないことが明らかとなる可能性があります。

 

プライベートエクイティのポートフォリオ会社やコンソーシアム所有の投資は、しばしば投資会計の対象であるか、外国の会計グループに連結されていないことが多いため、これらは自社の負債比率がグローバルグループを反映しているという理由でグリーンゾーンを満たす可能性が高いです。このようなグループについては、その資本構成が業界の慣習に一致していることを示すことが重要です。本PCGの草案に記載されている要因(パラグラフ52以降)は、どのような証拠が要求されるかを示すのに有益です。

リスクゾーンおよびレベル 基準 ATOのコンプライアンスアプローチ

ブルー

リスク未評価

インバウンド、クロスボーダー関連者間金融取引が、本PCGの草案の低リスクまたは高リスクの事例、もしくはホワイトゾーン基準のいずれにも該当しない場合

ATOは利用可能なデータを用いて取引を積極的にモニタリングし、コンプライアンスリスクを把握するためにレビューを行う場合があります。 
PwCコメント:本カテゴリーは、親会社保証によって負債額が影響を受けていないことを示すことができるが、負債比率がグローバルグループよりも高いためにグリーンゾーンに該当しない多くの納税者に対して適用されると予想しています。
リスクゾーンおよびレベル 基準 ATOのコンプライアンスアプローチ

レッド

 

高リスク 

インバウンド、クロスボーダー関連者間金融取引が以下のいずれかの基準を満たす場合:

  • 本PCGの草案の高リスク事例に該当する
  • ATOによる金額のレビューで「高リスク」評価(またはJustified Trust プログラムで「低い保証」)を受けている
ATOはリソースを優先的に割り当てて取引をレビューします。 これにはレビューや税務調査の開始が含まれる場合があります。 レッドゾーンは高リスクを示すものであり、インバウンド、クロスボーダー関連者間金融取引の金額について移転価格上の利益が得られていると推定するものではありません。 
PwCコメント:納税者は、ATOが本PCGの草案の事例4(親会社保証付きの関連会社借入)の範囲をどのように定義するのかに注意を払う必要があります。多くの納税者にとって、明示的な保証が交わされたかどうかにかかわらず、分析は必然的に仮説的な保証を考慮することになります。つまり、ATOによるPCGの運用の仕方によっては、納税者は事例4の範囲を満たす可能性があります。その後、当該保証が独立した場合よりも大きな借入を可能にするかどうかという問題は、複雑であったり主観的であったりする可能性があり、移転価格の再構成や保証料の損金性など、さまざまな疑問を招くこととなります。ATOは、納税者に対し(パラグラフ80において)借入に関する健全な基礎を示す必要があることを想起させるため、有用なコメントを提供しています(つまり、借り手は親会社保証の利益があっても、自社で資金を返済し管理できることを示す必要があります)。
独立企業間の金額を決定する際の関連要素

本PCGの草案は、資金調達要件を検討する際、「多国籍企業及び税務当局向けOECD移転価格ガイドライン」に沿って、企業が現実的に利用可能なすべての選択肢を考慮することが求められると強調しています。これには、負債資本(負債を利用して調達した資金)、株式資本、内部資金などが含まれる場合があります。

本PCGの草案は、ATOが企業に対して、最も適切な資金調達手段を決定する際に合理的に考慮すべきと考える要素の非網羅的なリストを示しています。これらは、ATOが企業のインバウンド・クロスボーダー関連者間金融取引の金額を審査する際にも考慮する要素となります。

要素 ATOのコメント(本PCGの草案より)

資金調達要件

  • 負債資本が必要とされる目的が金融取引の金額の決定につながっている。
  • 該当するコスト、支出、リファイナンス要件が負債資本利用を考慮する出発点となっている。
  • 資金調達要件と実際に調達される負債資本の金額が同一とは限らない。
負債資本の目的は、当初の契約(またはリファイナンス)時点から判断されるため、納税者は進行期の比率だけでなく過年度の状況も考慮する必要がある。
グループ方針・慣行 
  • グループの財務方針と慣行が、借り手(通常、取締役会や経営陣レベル) の資金調達の合意金額の決定に影響を与える可能性がある。資金調達の合意金額に影響を与えると予想される財務方針(およびその関連パラメータ)の例には以下が含まれる。
  • レバレッジまたは信用格付けの方針。特定のレバレッジ、目標格付け、または「フロア」を推奨または義務付けるもので、当該レバレッジまたは目標を達成することで、資本構成における負債の金額に制限が加えられる。
  • 配当方針。通常期待される配当支払額を設定するものであり、企業は負債の返済義務が利益を圧迫することにより、株主へのコミットメントが毀損されることを回避する。
株主へのリターン
  • 特定の投資や資金の利用によって達成される収益または財務上の利益は、融資額に影響を与える可能性がある。
  • 特定の融資額とその融資コストは、期待収益に影響を与える。これらは、そのリターンを計算するために使用される他の財務項目に直接的に影響を与えることに起因する。
資金コスト 
  • 資金コストを最小化する、または最もコストの低い資金源を利用するという商業上の要請が金融取引の金額に影響を与える。
  • 負債資本の保有額は調達コストに影響する。
  • 借入人は負債資本の保有額と、それが信用指標や貸し手の評価に与える影響を認識している。
コベナンツ
  • 現在のローン契約内の契約条項は、負債資本の使用に直接または間接的に制限を課す可能性があり、これが資金調達の金額に影響を与えることがある。
  • 一部の財務契約条項は、借り手が保有する負債の金額に直接結び付いている。そのため、追加の負債資本を検討する際には、借り手は既存の契約条項に対するさらなる負債の影響を評価する必要がある。
  • 契約条項は固定されたものでは無いが、企業の行動、特に投資決定に影響を与えるため、契約条件の遵守は、資金調達の金額に関する決定に直接影響を及ぼす。

明示的な保証

  • 明示的な保証は、貸し手が提供する資金の金額に影響を与える可能性がある。しかし、明示的な保証が支援できる負債の金額には制限がある。
  • 保証人の信用情報は(契約条件の交渉時に)重要な考慮事項となるが、その特定の資金調達合意の金額が保証人の債務能力に基づいて修正されることを意味するものでは無い。

担保

  • 担保は、貸し手が資金調達に関連して提供する資金の金額に影響を与える可能性がある。
  • 一般に、貸し手が担保権を設定するために考慮する資産は、売却可能で市場が存在する範囲で、借り手の有形資産となる。担保として認識される金額は、公正価値や市場価値といった評価方法に基づいて決定される。
  • 通常、貸し手は、持ち分(membership interests)としての担保権を除いて、借り手の無形資産や事業全体の評価は考慮しない。
返済能力
  • 借り手が債務の返済義務を履行する能力は、貸し手が資金調達に関連して提供する資金の金額に直接影響を与える。
  • 貸し手は、債務の返済可能性を測定する指標を様々な方法で用いる。例えば、ローン契約内の財務維持契約として、または債務者のリスク評価(または信用評価)への入力として用いられる。しかし、債務返済可能性の指標(例えば、債務返済カバー率)の使用は、資金調達で提供される金額や借り手の債務能力を決定する際に、「債務の金額の設定」や「債務の組成」としての役割が最も影響力を持つ。

レバレッジ 

  • 借り手のレバレッジは、貸し手が資金調達に関連して提供する資金の金額に影響を与える。
  • これは、債務返済能力と同様に、借り手のレバレッジが「債務の金額の設定」または能力の指標として使用され、貸し手が提供する資金の金額を決定する際に評価されるためである。

我々の経験に基づくと、多くの納税者は、今回のガイダンスの草案公表以前から、クロスボーダー関連者間借入の独立企業間の特性を評価する移転価格分析を行う際に、これらの要素を考慮してきました。 したがって、ATOのコメントは、すべての納税者がこれらの重要な要素を認識し、確固たる移転価格文書を作成するためのチェックリストとして活用できる点で有益です。

ATOは、移転価格の観点から独立企業間の負債額を評価する際、単なる財務指標だけでなく、商業的要素全体を総合的に考慮する可能性が高いと考えられます。 これまで関連者間借入の水準を財務指標のみに基づいて正当化してきた納税者は、本PCGの草案に記載された商業的要素を含めて、より幅広い観点から分析を補強することを検討すべきです。

低リスクおよび高リスクの事例

本PCGの草案には、2つの低リスク例と3つの高リスク事例が含まれています。

低リスクとされる事例は以下の通りです。

  • 事例1 – 第三者からの債務と関連者からの債務があり、第三者債務テストの適用を選択した場合。 この場合、過少資本税制の規定により、インバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引に係る全ての債務控除の損金算入が実質的に認められなくなるため、低リスクの取扱いとなります。
  • 事例2 – レバレッジおよび返済能力指標。 本事例では、インバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引を有するオーストラリア企業が、グローバルグループおよび一連の比較可能企業と同等またはそれ以上に良いレバレッジおよびインタレストカバレッジ比率を有しています。 したがって、これは低リスクの取扱いとなります。

低リスクの取扱いを希望する納税者は、事例2に該当するための負債水準や金利コストを評価する必要があります。 本事例では、オーストラリア法人のレバレッジおよびインタレストカバレッジ比率について「比較可能企業」との比較が求められる点に注意が必要です。 そのため、移転価格ベンチマーキング分析を実施する必要があります。

前述の通り、実質的な取引に関連者間借入を利用している多くの企業グループは、業界や同様の状況にある比較可能企業と整合している場合であっても、グローバルグループの財務指標を満たすことが困難な場合があると予想されます。 グリーンゾーンに該当しない納税者が、独立企業間の負債額を裏付けるために比較対象を特定する際には、負債の目的や借入人の性質・状況を考慮することが重要です。 例えば、買収のために利用された負債は、当初は通常より高いレバレッジ水準となる場合があります。 同様に、流動化のイベントによる返済を目指すプライベートエクイティ所有グループの負債プロファイルは、上場企業とは異なる場合があります。 どのような比較調整が必要かを評価することが重要であり、より複雑なケースではデットアドバイザリーの専門家を関与させることが必要となるケースがよく見受けられます。

高リスクとされる事例は以下の通りです。

  • 事例3 – 多額の手元資金を有しながらクロスボーダー関連者間金融を利用している場合。 本事例では、オーストラリア企業がインバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引額に対して多額の手元資金を有しており、これらの取引から生じる債務控除が、同額の手元資金から得られる利息収入を大きく上回っているため、現実的に利用可能な選択肢を十分に検討していない可能性が高いとATOは考えています。 したがって、これは高リスクの取扱いとなります。
  • 事例4 – インバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引額をサポートするために関連者による明示的な保証が付されている場合。本事例では、オーストラリア企業のインバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引が複数のコントロール取引により生じたものであるため、ATOは独立企業間の条件と整合しないリスクが高いと考え、高リスクの取扱いとなります。
  • 事例5 – 固定比率テストの余剰枠を活用するためにクロスボーダー関連者間金融を利用している場合。 本事例では、オーストラリア企業がインバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引を有し、その一部を関連者に再貸付し、そのリターンが当該金融取引に係るコストを下回っています。 オーストラリア企業が固定比率テストの余剰枠を活用してコストを下回るリターンを生み出しているため、ATOはこの取引が債務控除額の最大化を目的として行われた可能性が高いと考え、高リスクの取扱いとなります。

ATOがリスク評価のために標準的な比率に基づく数値的なスコアリング手法を採用しなかった点は評価できます。 具体的な事実や状況に着目したアプローチを採用することで、ATOは債務取引の市場や業界の動向を認識し、現実の状況により適合した評価を行うことができます。 ただし、提示された事例は非常に事実関係に依拠しており、リスク評価フレームワークの下で従来型の関連者間債務分析をどのように進めるべきかについての考察はあまり得られません。

書類および証拠

ATOは、インバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引を行う納税者に対し、金融取引が存在する各課税年度ごとに、移転価格ポジションを裏付けるための書類および証拠を維持することを求めています。 これには以下が含まれるべきです。

  • すべてのインバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引の独立企業間の特性を裏付ける移転価格分析
  • 事業体が現実的に利用可能なすべての資金調達オプションを検討したことを示す資金調達提案書や同様の書類
  • 株主(または投資家)へのリターンやその他の経済的利益の評価を示す計算書や作業記録
  • インバウンドのクロスボーダー関連者間金融取引が全体の(負債)資本コストに与える影響を検討した書類や作業記録(これには、第三者(貸し手や格付機関など)とのやり取りを含む場合がある)
  • 調達資金の用途に関する詳細
  • 取引の検討を示すその他のやり取り(オファーの反復や条件交渉を含む)
  • グループ方針(これらの方針や関連する実務がグループメンバーの外部借入実務にどのように影響するかの概要を含む)
  • 署名済みかつ実行済みのファシリティ書類(関連者間および第三者間の両方)、すなわちローン契約書、債券目論見書、タームシート、保証契約書、担保書類および法的意見書、認証済み署名者リスト、加入証書などの補足書類
  • 国際的な関連者や関係会社への支払いの証拠(利息や元本の返済を含む)

ATOの移転価格文書化に関する見解および、1953年課税管理法付則1のサブディビジョン284-Eを満たすための推奨フレームワーク(a suggested framework for satisfying Subdivision 284-E of Schedule 1 to the Taxation Administration Act 1953)は、税務裁定TR 2014/8所得税:移転価格文書化およびサブディビジョン284-E (Taxation Ruling TR 2014/8 Income tax: transfer pricing documentation and Subdivision 284-E)に示されています。

なお、本PCGの草案にはデミニミス基準やPCG 2017/2で定められたATOの簡易移転価格記録保持オプションとの関係についての記載はありませんが、低額インバウンドローンのオプションは引き続き利用可能であると考えられます。

Team looking at screen

The takeaway

PCG 2025/D2は、ATOが移転価格規則をどのように適用し独立企業間の負債水準を評価するかについて、初の見解を示しています。 ガイダンス策定にあたり、ATOはデット分野の専門家と広範に協議を行い、これまでの監査や価格に関する紛争で問題となっていた事項に対応する有益な詳細を提供しています。 他の最近のATOガイダンスと比べて例示は少ないものの、本PCGの草案は、独立した当事者が融資状況を評価する際に考慮する重要な要素を提示しています。 我々の見解では、本PCGの草案は、納税者が財務・資金調達の専門家を関与させ、クロスボーダー関連者間債務を導入する際には関連するあらゆる商業的要素を考慮すべきであるという明確なメッセージを発しています。 

実務的な観点
  • 移転価格リスクを最小限に抑えたい慎重な納税者は、グリーン(低リスク)ゾーンに該当する負債水準や利息コストを検討すべきです。 これには、比較可能な企業のレバレッジ比率やインタレストカバレッジ比率を特定するための移転価格ベンチマーキング分析が必要となる可能性が高くなります。
  • グリーン(低リスク)ゾーンに該当しない納税者は、自社の負債が独立企業間の水準であり、商業的に正当化できることを示す準備をしておく必要があります。 クロスボーダー関連者間借入金の独立企業間の評価は、本PCGの草案で言及されているものを含む幅広い商業的要素を考慮すべきであり、多くの場合、単なる財務比率の定量的分析を超えた評価が求められます。
  • これまで関連者間借入金の水準を財務比率のみで正当化してきた納税者は、本PCGの草案で示された商業的要素のより広範な評価を分析に取り入れることを検討すべきです。

※本アラートは、PwC Australiaが発行したTax alertを抄訳したものです。訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。


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